大学生の頃、実習で、ある博物館に一週間ほどお世話になったことがあった。
にこにこした館長さんと、優しいお姉さんたちに支えられて楽しい時間を過ごした。
別れ際に館長さんが、うちの実家は香川で有名な張り子の虎を作っているお店をしていると教えて頂き、
いつか機会があれば是非遊びにおいでと言って頂いた。
それから、私は、大学を卒業して、仕事をして、子どもを産んで、
それでも、時々アルバムを開いた時にたった一週間しかいなかったけれど、
もう一度あの人たちに会いたいなぁと心密かに思っていた。
それから15年以上が経って、旦那が次の仕事は張り子の虎のお店なんだけど…と話し始めた時、
もしかしたら!と胸が高鳴った。
そして、撮影に半分無理やり同行させてもらうことになった。
館長さんは顔のものすごーーーく広い方で、一週間実習に来た小娘を覚えているはずもなく、
それでもまためぐって来た機会が私はとても嬉しかった。
子どもたちも絵付けの体験のモデルという名目でちゃっかり、しっかり楽しんだ。
館長さんはお元気で、昔と全く変わらない空気でそこにいらした。
淀みなく、静かで、温かく、深く。
話し方も、人に対する心遣いも何一つ変わっていなかった。
そのことに私はただただ感動していた。
私はといえば、自分の思い通りにいかないことに終始イライラしたり、
頑固になって人に背を向けたり。かと思えば、
違う意味では相変わらず無作法で、世間知らずのままで。
そんな私をあの日と同じ笑顔で丁寧に迎えてくれた。
そして、館長さんの奥さんも、取り巻く人たちも素敵な人たちだった。
あったかいお鍋をみんなで食べたみたいな穏やかな時間。
あぁ、だからまた会いたかったんだ。
年末にまたおいで。
来年の干支を作ろう。
帰り際にそう言って車まで送って頂いた。
一年の終わりがいつも憂鬱な私にはプレゼントのように温かい言葉だった。
袖振り合うも他生の縁。
そんな言葉を思いながら、
子どもたちにもこの空気を覚えておいてほしいなと願いをこめて頭を下げた。
2021年9月2日