少し前、高松にある古道具屋さんの店主の方と少しお話をする機会があった。
本当に30分くらいの間だったけれど、その方がふいに、子どもの頃の話を始めた。
「古い映画館があったんです。子どもの頃そこに父と通っていて、大きくなって映画館が閉館になる前に見に行ったら、そこに父がいました。
父も見に来ていたんです(笑)」というお話だった。
私の前には見たこともない少年とお会いしたこともないお父さんが立っていて、古い映画館で楽しそうに肩を並べる姿が見えた。
たまたま寄った本屋さんで立ち読みしたらものすごい素敵な本に出会ったような感動だった。
その感動を語彙力のない私はうまく表現できず、伝えることもできず、「また、遊びに来てください」という意味不明なことを言ってしまった。
私にとって、とっておきの話というのがある。
うまく言えないけど、急に始まって、その瞬間に自分もそこにいるようで、幸せな時間を共有したような一瞬のようで永遠みたいな時間。
学校に出る前に娘が振り返って「あぁ、お母さん、昨日帰りにイチジクが、緑のイチジクがなり始めとったわ」
クリーニング屋さんの方が、「昨日、お鍋食べたんよ」
だったり、何の準備もしていない時にやってくる。
そのたびに私はその余韻にひたりながら、とっておきの言葉を繰り返す。
2024年3月8日